2016年09月11日

UTMB2016(その5:トリエンからゴールまで)


トリエンからからゴールのシャモニーまで、距離は29キロですが、その間にはまだ2つの山越えが残っています。大山登山とほぼ同じスケールのカトーニュと、それを一回り大きくしたレベルのテットーバンです。まさに最後の難関に差しかかるところですが、夜明けとともに気力もみなぎってきました。ここまでくれば無心。ただ、ゴールに向かって突き進むだけです。

3キロあまりの間に700メートルも標高を上げるカトーニュの厳しい登り坂のことは、なぜか記憶にありません。しかし、これを超えたあとの長い下りの様子は、鮮明に覚えています。下りが苦手な私ですが、5人ほどのランナーの一団に混じって、つづら折りの登山道を全速力で駈け降りていきました。舞い上がる土煙が気管に取り込まれる不快さに耐えながら、「この群れから離れてなるものか」と、懸命に食らいついていきました。

次の関門であるバロシーヌのエイドへ到着したのは、午前10時14分。
エイドの前では、地元の人たちが「ブラボー!」と言って迎えてくれます。
このしばらく前から私は、応援への返事を「メルシー」ではなく、「ありがとう!」と日本語で返すようにしていました。
初めてそうしたのは、「日本人なんだからありがとうで≠「いか」と思ったからですが、その時に相手が、「アリガトウ? アッハッハッ、アリガトウ!」と、こちらが驚くほど喜んでくれたのです。
なので私の挨拶は、ここでももちろん「ありがとう!」です。

バロシーヌのエイド(10時13分・151キロ地点).jpg


このエイドでは、コーラとクラッカーを口に入れただけで、10時20分には早々と出ていきました。関門時間は、リスタートタイムで11時15分なので、余裕は55分です。出る前にエイドにいるランナーたちの表情を伺うと、皆一様に余裕があるように見えたので、少し安堵してのリスタートでした。

バロシーヌのエイド2(10時13分・151キロ地点).jpg

ここからモンテ峠までは、なだらかな上りが3キロほど続きます。走れないほどの勾配ではなかったのに、気のゆるみからか大半を歩いてしまい、到着するのに1時間近くもかかってしまいました。


そして、いよいよ最後の一山となるテットーバンへの登りにかかります。
初めは「岩の多い登山道」という感じでしたが、しだいにその傾斜がきつくなり、そのうちに「岩の斜面に取りつく」感覚になってきます。

テットーバンの登り(11時22分).jpg

前日に続き、この日も猛暑の様相。しかも折からの強い日差しが目の前の岩に照り返されるので、まさに灼熱地獄です。急に喉が渇きはじめ、何度も水を飲みました。大きな岩がつくる木陰で休んでいるランナーを見たときは、私も思わずその横に座り込んでいました。

岩の木陰で一休み(12時18分).jpg

それにしても、この山は不思議な山です。下から見て山頂と思われたところへ到達すると、まだその先に続く登山道が現われ、さらにその先の到達点と見える場所まで行くと、またその先の登りが見えてくる・・・そんなことが何度も繰り返される、いわばエンドレスな山≠ナありました。
ということで、どこまで行っても山頂が見えてこないのです。

テットーバンの登り2(12時18分).jpg

テットーバンの登り3(12時34分).jpg

こちとら、そんな山とはつゆ知らず、はじめに山頂と思われたところへ着いたときに余裕をこき、わざわざコースを外れて麓の街が見える撮影スポットを探して、「記念に」と写真を撮って喜んでいました。それにしても、なんて早とちりなやつなのでしょう。



テットーバンの登り4・下界を見る(12時44分).jpg

しかし、この長閑に過ごした時間はその直後から一転。あらためて、行けどもいけども届かない山頂を目指し、焦りのラン≠ェはじまります。
結局、この“エセ山頂”から30分もかかってテットーバンへ到着しました。ここでスタッフに、次の関門である「フレージュはまだ?」と尋ねたら、その答えは日本語で、「アト4キロ。イソゲー!」でした。
フレージュの関門と思われる建物は、そのあたりからチラチラと見えていたのですが、足元に岩がゴロゴロの登山道は、下り基調にもかかわらず早く進むことができません。暑さも追い討ちをかけて疲労もピーク。気持ちと体は連動せず、ほとんど歩きのペースになっていました。



最後の山頂テットーバン(13時15分・158キロ地点).jpg

こうして、ようやくフレージュの関門についたのは14時16分。テットーバンからちょうど1時間かかっていました。ここではボトルに水を補給し、14時27分にリスタートしました。ゴールであるシャモニーの関門時刻は16時30分なので、残る8キロを2時間3分以内に走りきれば完走ということになります。



フレージュのエイド(14時15分・162キロ地点).jpg

エイドを出たところで、併走していた日本人ランナーが、「ここからゴールまでは、1時間半くらいで行けますよ」と教えてくれました。しかし、この後にある標高差800メートルの下りは、登山道と林道の激下り≠フはず。下りが苦手なので、「普通のランナーが1時間半なら、私は2時間かかるかも」と思いました。猶予はありません。前を行くランナーの背中を追い、スキー場のゲレンデから林道、そして登山道へと入っていきました。

フレージュのエイドをリスタート(14時27分・162キロ地点).jpg


「ここが最後だ」と思い、がむしゃらに走りましたが、やはりこの急な下りをうまくこなせず、後続のランナーに次々と追い越されます。時折、登山道の木々の間から下の方が見えるものの、その底にあるはずの街までは視界が届きません。「間に合うのか? いや、間に合わせてみせる。絶対に諦めないぞ」と心を奮い立たせました。

そして、長い長い登山道を抜け、さらに林道を3キロほど走ってようやく山を終え、舗装道路に入りました。とうとうシャモニーの街に帰ってきたのです。時刻は15時42分。ゴールの関門時刻まで、残すは48分。
沿道で声援を送ってくれている人に、「How far to the goal?」と聞いたら、「One km」と教えてくれました。「えっ、もうたった1キロなの?」と拍子抜けしながら、「ありがとう!」とお礼を言って走りすぎました。

シャモニーの街(28日15時42分).jpg

ゴール前の数百メートルは、まさに凱旋ロード。沿道を埋めた多くの市民が、拍手と歓声で迎えてくれます。これほどの光景は、「この大会ならではのもの」と言ってもいいでしょう。「お祭り騒ぎ」なんてものではありません。「空前絶後」、あるいは「筆舌に尽くしがたい」・・・そんな言葉で形容するしかないほどです。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう!」・・・私はポールを振り上げ、笑顔を返してその声援に応えます。

シャモニーの街2(28日15時47分).jpg

シャモニーの街2(28日15時52分).jpg

ゴールの手前には、私の完走を疑いつつも健気に待っていてくれた奥方がいました。そして私は、つかんだその手を高々と掲げながら、群青のゴールゲートへ飲み込まれていきました。

奥方とゴール.jpg

ゴールの光景.jpg


(私の記録)
タ イ ム 45時間52分21秒
総合順位 1383位/2555人
完 走 率 57%(1468人/2555人)


(その1)へ戻る → http://t-tono.seesaa.net/article/441588063.html
(その2)へ戻る → http://t-tono.seesaa.net/article/441647353.html
(その3)へ戻る → http://t-tono.seesaa.net/article/441720045.html
(その4)へ戻る → http://t-tono.seesaa.net/article/441780833.html

(観光編)へ飛ぶ → http://t-tono.seesaa.net/article/441906743.html


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posted by との at 06:15| 鳥取 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 走る | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いやぁ〜、完走おめでとうございます。
大変なレースの記録楽しく拝見しました。
毎週のウルトラとフル出場やUTMFもすべてこのレースのためだったのですね。今わかりました。その計画性に脱帽です。
今度は何をされるのか。ワクワクします。
Posted by もとたろう at 2016年09月12日 09:56
改めて完走おめでとうございます!それと、ご無事でなによりでした!
たいへんな大会なんですね。コースが厳しいというだけじゃなく、景色ももうすごい!というほどすばらしくて、こんな大会に出たら人生観かわりそうですね。参加するのは無理でも見に行ってみたくなりました。
Posted by たこ at 2016年09月12日 15:42
> もとたろうさん

ありがとうございます。
でも私の場合、計画性があったわけではなく、「あれも出たい、これも出たい」と見境なく出場しまくっていたら、いつの間にかUTMBにたどり着いていたということです。
これからも、「行き当たりばったり」で走り続けようと思います。
Posted by との at 2016年09月12日 15:49
> たこさん

ありがとうございます。
国外の大会へ出たのは初めてでしたが、5泊したシャモニーは、モンブラン峰をはじめとするアルプスの真下。登山、トレイル、ハンググライダー、ケーブルカー等を使っての気軽な観光を楽しむ人などで溢れる、とても魅力的な街でした。
街の雰囲気はとてもゆったりしており、私もレースの前後を、穏やかな気持ちで過ごすことができました。たこさんも、ぜひ。
Posted by との at 2016年09月12日 16:11
UTMBで奥さんとのゴール写真がrun+trailに掲載されていましたよ❗
すごい⤴⤴
とのさんにすこしでも近付けるように頑張ります✨
Posted by 藤本です at 2016年10月29日 09:13
> 藤本さん

ありがとうございます。
あなたを含め、3人の走友からその情報をいただきました。で、さっそくアマゾンでこの雑誌をとりよせ本日、自分の目で確認したところです。
奥方の半歩後ろで手を引かれている私の表情は、完全に放心状態。まるで屠殺場へ連れて行かれる哀れな山羊のようではありませんか。こんな危ない世界に、決して近づいてはいけませんぞ(笑)
Posted by との at 2016年10月29日 19:42
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